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ショートエッセイ:中通りコミュニティ・チャーチ

消えた青年

(2013年7月14日)

自宅を開放して私立の児童相談所を開設するなど、様々な問題を抱える子どもたちと向き合う働きをしてこられた地主愛子さんは、自分の生き方はお父さんの影響を強く受けたものだと語っておられます。

時は大正、愛子さんが小学校三年生の時。刑務所を出たばかりの青年が、「前科者の自分では、誰も雇ってくれない」と、クリスチャンのお父さんを頼ってきたそうです。いつもはお父さんに従順なお母さんでしたが、その時ばかりは反対なさいました。しかし、お父さんは「この子を今私が突き放したら、また必ず罪を犯すに違いない」と、彼を雇うことにしました。父は、この青年に親切にし、食事の時も彼を家族の一員としてテーブルにつかせました。

ところがある日、その青年を集金に出したところ、彼は帰ってきませんでした。お母さんは言いました。「私があれほど反対しましたのに、お聞きにならないからこういうことになったのです。早く警察に届けましょう」。それは当然です。今の額にすれば、一千万円以上のお金を持ったまま、彼はいなくなってしまったのですから。

その時、お父さんはこう言いました。「もし今私が警察に届けたら、あの子は一生犯罪から足を洗えなくなる。朝まで待ってくれ。かならず帰ってくるよ」。しかし、次の日になっても、とうとうその青年は帰ってきませんでした。

泣いているお母さんにお父さんは優しく言いました。「働けばお金は返ってくるよ。そう悲観しなさんな。私が悲しいのは、私の愛が足りなかったことだ。あの子に、また罪を犯させた私の愛の足りなさが申し訳ないのだ。そういう私の心が分からないお母さんではだめですよ」。そう言って、大きな目に涙をためて、お父さんはアハハハと笑い飛ばしたそうです。このことが、愛子さんの魂を強く揺さぶりました。

お父さんは一千万円を失い、信頼していた青年を失いました。しかし、その生き様を見ていた愛子さんを通して、たくさんの子どもたちの魂を獲得なさいました。私たちが子どもたちに残せる遺産。それはお金ではなく、私たち自身の生き様。神さまを信じる者としての生き様です。

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