窓の外の風景

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(2013.7.7)

昔、まだ結核が不治の病として恐れられていた時代の、アメリカの病院での出来事です。そこは、もう自分では動くことができないような重症の患者さんが入れられる病室でした。この部屋には、入り口から窓際まで、7つのベッドが並んでいました。

一番奥の、窓際のベッドには、ジョンという人が寝かされていました。彼は、動くことができない病室の仲間たちのために、窓から見える風景を毎日語って聞かせました。「今、子どもたちが通っていくよ。楽しそうにおしゃべりして。一番後ろの女の子が手に持っているのは……ああ、あれはヒナゲシだ。気持ちのいい季節だねえ。ミツバチたちも忙しそうに飛び回っているよ。今日は日差しが穏やかだ。馬をつれた農家のおじさんも、そこの木の陰でのんびりと一服してる。おやおや、ちょっと早めのお弁当にするみたいだ。おかみさんの作ったサンドイッチを、おいしそうに食べ始めたよ」。

しかし、ある朝、窓際のジョンのベッドが空っぽになっていました。昨夜遅くに病状が急変し、ジョンはそのまま帰らぬ人となってしまったのです。同室に、ボブという人がいました。「おい、看護師! ジョンの奴がいなくなったから、今度は俺を窓際のベッドに移してくれ!」 ボブは看護師さんを呼びつけると、そんなふうに言いました。看護師さんたちがボブを窓際のベッドまで運びました。

新しいベッドに寝かされながら、ボブはこうつぶやきました。「俺はジョンとは違う。絶対に仲間たちに外の話なんかしてやらねえ。俺だけで景色を楽しんでやる」。長い闘病生活。治る見込みの少ない病気。自暴自棄になっていたボブの、それは心の痛みから出てきた思いだったのでしょう。

窓際のベッドに移されたボブは、さっそく窓を開けてもらいました。そして絶句しました。この数ヶ月、ジョンが話して聞かせてくれた、そこに広がっているはずの農園、花畑、子どもたちの通学路はどこにもなく、目の前には冷たく汚れたレンガの壁が立ちはだかっていたのです。

「おおい、ボブよ。今度はお前の番だ。聞かせておくれ。外の景色はどうなんだい?」 5人の仲間たちが尋ねます。ボブは涙をこらえながら、一生懸命語りました。「おお、あれはトンボだ。恋人同士みたいに、並んで飛んでいった。空は真っ青だ。山の向こうに立派な入道雲が立ってる。もうすっかり夏だよ、みんな!」

見えない世界を見る力。それを信仰と呼びます。あなたはその力を使って、「もうダメだ」という呪いの世界を思い描きますか? それとも……。

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