フライパン事件

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(2006.7.30)

カウンセリングにいらっしゃったMさんは、ご自分の気持ちや考えを、相手にストレートに伝えることが苦手でした。つい我慢してしまうのです。そして、ストレスがたまっていって、ある時ドカンと爆発します。しかも、その爆発の仕方もカーブがかかります。ご主人と話ができなくて「寂しい」と言う代わりに、子どもを怒鳴りつけたり、近所の奥さんに誤解されて悔しいのに、ご主人の皿の洗い方に文句をつけたり……。おかげで、夫婦関係やご近所との関係もぎくしゃくしていました。

話を聴かせていただく中で、Mさんはある象徴的な出来事を思い出されます。Mさんの両親は仲が悪く、Mさんが中学生の時に離婚してしまいます。思い出したのは、Mさんが3才頃のことです。いつものように両親はけんかをしていました。しかし、その時、お母さんは料理の途中で、油をひいたフライパンが火にかけたままでした。そして、やがて熱せられたフライパンが煙を上げ始めました。

Mさんは、けんかしている両親の所に行き、そのことを伝えようとしました。ところが、3才ですから、うまく表現できなかったのかもしれませんし、何より両親はけんかに夢中でしたから、Mさんの言葉が耳に入りません。しかし、さすがにこちらの部屋まで臭いが漂ってくると、両親ははっと気がついて、出火直前でコンロの火を止めることができました。

問題はここからです。Mさんはこのあと、両親に叱られてしまいます。「どうして教えなかったんだ!」と。それで、Mさんは幼心にこう思いました。「私が何を言っても、親は私の言うことなんか聞いてくれない。何を言っても無駄だ」と。

小さな子どもにとって、親は世界の人々の代表です。そこで、「すべての人は私の言うことに耳を傾けてくれない」という思いこみが生まれたのでした。こうして、言いたいことがあっても我慢し、やがて耐えられずに爆発するというパターンを、Mさんは身につけてしまいました。

Mさんはクリスチャンでした。イエス・キリストは、昨日も今日もいつまでも同じ方です。だから、目には見えなかったけれど、あのフライパン事件の現場にもいらっしゃったはずです。そのことをお話しして、もう一度あの場面を想像していただきました。

すると、Mさんの目からぽろぽろと涙が流れ始めました。しばらくして、こんな話をしてくださいました。Mさんが、両親に叱られて、泣いていた部屋の中に、イエスさまがすーっと入ってこられ、Mさんをぎゅーっと抱きしめてくださいました。そして、耳元で優しくおっしゃったのです。「私は知っているよ。お前が一生懸命火事だって伝えようとしたことを知っているよ。お父さんもお母さんも聞いてくれなかったかもしれないけど、私は聞いてたよ。これからもずっと聞いてるよ」。

この日を境に、Mさんは変わり始めました。自分の気持ちを相手に伝わるように表現することができるようになっていきました。夫婦関係もすっかり良くなり、いつ離婚しようかと言っていたこの夫婦に、二人目の赤ちゃんまで与えられました。

イエスさまは、あなたの心の傷もいやしてくださいます。

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