たかだか地下数十メートルのこと

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(2010.8.22)

若くて有能な設計士がいました。ある日、彼の奥さんが突然教会に通い始めました。そればかりか、間もなく同居していたお母さんも、お父さんも、子どもたちまでも教会に通い始め、次々と洗礼を受けていきました。

彼自身も、家族の手前、クリスマス・コンサートなどの特別な集会の時にはたまに顔を出すようになりますが、「決して自分は信じるもんか」と思っていました。彼は自分の理性と能力に絶対の自信を持っており、神なんかに頼る生き方が弱いものに思えて、とても受け入れられなかったのです。また、科学で割り切れない世界にも嘘っぽさを感じていました。

そんなある日、彼はトンネルの設計を手がけました。自分でも最高のできばえと思えるような図面が書けました。

ところが、いよいよ工事が始まって間もなく、現場監督が図面の書き替えを要求してきました。そして、難色を示す設計士にこんなことを言いました。「どんなにすばらしい図面であっても、それは机の上での話。実際に掘ってみたら、最初の図面通りに行かないこともしょっちゅうです。何しろ、ほんの数十センチ掘っただけで、まったく地層の状態が変わってしまうのですから」。

このことを通して、設計士は考えさせられました。人間は理性と能力によって何でもできると思っていたが、たかだか地下数十メートルのことすらほとんど分かっていないではないか、と。そして、何でも分かっているような顔をして生きていた自分は、なんと傲慢だったのかと思わされました。

それから彼は、次の日曜日に教会に出向き、牧師の前でキリストを信じて生きることを宣言したのでした。

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