スクールソーシャルワーカーだより

アンカリングの応用

今回も子育てや指導に役立つお話をさせていただきます。今日のテーマは「アンカリング」です。

感情と行動の結びつき

以前、人を動かすときは、嫌な感情を使わない方がいいと申し上げました。たとえば……

  • 脅し → こうなったら大変だという「不安」を使って相手を動かすやり方です。
  • 暴力 → 「恐怖」や「痛み」を使うやり方です。
  • 嫌み → 「羞恥心」や「恥」を使うやり方です。

誰も嫌な思いをしたくありませんから、こういった方法を使えば、一時的には相手は思い通りに動いてくれるかも知れません。しかし、それは嫌々ながらの、自発的ではない行動ですから、目を離せばまた不適切な行動に戻るでしょうし、子どもが成長して強くなってくると、反抗するようになるかも知れません。

 

アンカリング

そして、もう一つの理由は、「アンカリング」が起こるからです。アンカリングとは、船のいかりを海底に降ろすことですが、心理学では「特定の行動が特定の感情に結びつくこと」を指します。

 

たとえば、脅したり怒鳴ったりして、何かの行動をさせようとしたとします。

  1. すると、その行動が不安感や恐怖心にアンカリングします。
  2. そして、その行動を起こすたびに、不安感や恐怖心を感じることになります。
  3. 人は、嫌な気持ちは味わいたくないですから、その行動自体を無意識に避けるようになります。
  4. その結果、その行動が身につかないということになってしまいます。

 

人は、叱って育てるよりも、ほめて育てた方がいいというのは、望ましい行動と好ましい感情とをアンカリングさせることができるからです。それにより、望ましい行動が身につきやすくなります。

 

自分自身への応用

アンカリングは、人を動かすときだけでなく、自分自身が望ましい習慣を身につけるときにも利用できます。できなかったことを反省するよりも、ちょっとでもできたこと、進歩したことを見つけて、たくさん自分をほめましょう。そうしていい気持ちになります。すると、きっと結果が違ってきます。

皮膚感覚へのアンカリング

アンカリングを応用すると、ストレスいっぱいの状況でも、リラックスしたり、自信に満ちあふれたりすることができるようになります。どうするかというと、特定の皮膚感覚(自分の耳たぶぎゅっとつまむとか、手首を触るとか)と、好ましい感情(リラックスややる気など)をアンカリングさせるのです。

 

たとえば、人前で話をするとき、いつもアガってしまい、うまくしゃべれないとします。そんなときは、過去の経験の中から、誰かと二人で楽しくおしゃべりした場面とか、広々とした草原でリラックスした場面とかを思い出します。自分がこうなりたいと思っている感情に、一番近い感情を味わった記憶を思い起こすわけです。

 

そして、目を閉じてその場面を思い起こしながら、かつて味わったあの素敵な感情の中に、しばらくじっくりと浸り切りましょう。そして、「そうそう、この感じ、この感じ」と思えるようになったら、自分の耳たぶをぎゅっとつまみます。そして、最後に心地よい深呼吸をしてから目を開けます。

 

この作業を3〜5回ばかり繰り返し、そのたびに「そうそう、この感じ」というのを確認していくと、耳たぶをぎゅっとつまむだけで、いつでも「あの感じ」に浸ることができるようになります。

 

そうなればしめたものです。実際に人前で話をする前に、まずはこっそり耳たぶをつまんで、リラックスした楽しい気持ちをオンにします。それから話し始めます。すると、きっと以前に比べて緊張しないで話をすることができるようになっているでしょう。

 

たくさんアンカリングしておく

勉強や仕事などで集中したいときには、ゲームや映画などで時間を忘れて集中したときの気持ちをアンカリングすればいいでしょう。やる気を引き出したいときには、ライブやお祭りやクラブ活動などで燃えたときの気持ちをアンカリングすればいいでしょう。そんなふうに、いい気持ちを味わった記憶をたくさん掘り起こしておくと、アンカリングに利用できます。

 

また、アンカリングに使える動作は、別に耳たぶをつまむだけではありません。手首に触れるでもいいし、おなかのあたりをさするでもかまいません。複雑でなければ何でもいいのです。

 

ただし、耳たぶはリラックス、手首はやる気、おなかは集中というふうに、一つの動作に対して一つの感情を割り当てるようにしてください。そして、状況に応じて使い分けるようにしましょう。

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