スクールソーシャルワーカーだより

社会的手抜き

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アメリカでの話です。女性が住宅街の通りで殺されるという事件が起こりました。

 

捜査の結果分かったことですが、実は、この女性は同じ犯人に2度襲撃されています。最初の時、女性が大声を出したので、驚いた犯人はその場から逃走しようとしました。ところが、誰も出てこなかったため、犯人は戻ってきて女性を殺害したのでした。

 

警察が捜査したところ、かなりの数の住民が、女性の最初の叫び声を聞いていました。ところが、誰一人として表を確認したり、警察に通報したりしなかったのです。住民たちは口々に言いました。「誰かが通報すると思っていた」。

 

綱引き実験

こんな実験があります。一対一で綱引きをしてもらいます。選手には機械を装着して、どれだけの力を出したかを計測します。次に、5対5、10対10というふうに、参加する人数を増やしていきます。

 

すると、人数が増えるごとに、一人あたりの力が小さくなることが分かりました。つまり、「手抜き」が起こったわけです。

 

そこには

 

「自分がやらなくても、誰かがやるだろう」
「自分一人くらい手を抜いても、全体には影響しないだろう」

 

という心理が働いていると考えられます。先ほど紹介した事件の住民と似ていますね。

 

このように、たくさんの人がいるときに、無責任・無関心な態度や手抜きなどが起こる現象を、「社会的手抜き」と言います。

誰か手伝ってよ

ある奥さまがぷりぷり怒っていらっしゃるので理由を尋ねました。すると、「食事のあと、私が食器を洗ったり、洗濯物をたたんだりして忙しくしているとき、旦那も子どもたちも、同じ部屋にいてテレビを見てゲラゲラ笑っている。まったく、手伝おうっていう気持ちがないのかしら」とおっしゃいます。

 

その怒りをしばらくお聴きしたあとで、「手伝うようにおっしゃらないのですか?」と尋ねてみると、「もちろん言ってます」。「どんなふうに?」とさらに尋ねると、「誰か手伝ってよ!」

 

おもしろいテレビに集中していると、お母さんの声が聞こえないこともあります。そのようなときには、その場で何を言っても無駄なので、あらかじめ(この場合は、食事の前がいいでしょう)、何を手伝って欲しいかを家族にお願いしておく必要があります。

 

そして、仮に聞こえていたとしても、あるいは事前にお願いしたとしても、「誰か手伝って」という言い方では、先ほど申し上げた社会的手抜きが働いて、「他の誰でもなく、この自分が手伝いを求められているのだ」という意識が希薄になります。そこでやっぱり動かない。

社会的手抜きを起こさない方法

子育てでも、教育でも、商売でも、他の人に何かをしてもらいたいときには、社会的手抜きを引き起こさないために、次の2点に注意しましょう。

  1. 個人的に名前を呼ぶ。
  2. 何をして欲しいか、具体的に説明する。

たとえば、「あなた、シンクにつけてある食器を全部洗って、乾燥機に入れてちょうだい。スイッチは入れなくていいから。花子は洗濯物を最後までたたむのを手伝って。太郎は2つのストーブに灯油を入れてきて、終わったら洗濯物たたみに加わってね」というふうに。

 

原因が他にある場合

もちろん、社会的手抜きの心理だけが、人がこちらの願い通りに動いてくれない理由ではありません。ですから、この方法を使ったからといって、確実に手伝ってもらえるとは限りません。

 

たとえば、命令調や説教調で伝えたとしたら、相手は反発して「そういう言い方をするんだったら、絶対手伝ってやるもんか」と思ってしまうかもしれませんね。

 

これまでこの「スクールソーシャルワーカーだより」でお話ししたようなコミュニケーションの方法を実践しながら、さらに「個人的に、そして具体的にお願いする」という方法を試してみてください。きっと効果を実感なさるはずです。

 

それでは、来年度もよろしくお願いします。

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