スクールソーシャルワーカーだより

5つの欲求 その1

現実療法を創始したウィリアム・グラッサーは、人間には5つの基本的な欲求があると言いました。人は、これらの欲求を上手に満たしてもらえると、満たしてくれた人や場に対して心を開き、その期待に応えようとし始めます。

 

今回と次回は、「5つの欲求」活用のヒントをお話しします。

生存の欲求

第1の基本的欲求は、「生存の欲求」。生き延びたい、安全でありたいという、生物としての基本的な欲求です。

 

事故や病気などは別として、今の日本で、この欲求が継続的に脅かされているという状況には、あまり遭遇しないかもしれません。しかし、虐待やDVなどは、この欲求が脅かされている状況です。実際には命の危険がなかったとしても、継続して暴力やひどい脅しが加えられるような状況、あるいは暴力を受けているのが他人であっても、それをいつも見せられるというような状況が続くと、人は精神的に大きな痛みを抱えることになります。

 

たとえ暴力を使わなくても、恐怖心や不安感を使って、子どもをしつけたり、部下や後輩を指導したりすることは、よく見られるのではないでしょうか。怒鳴ったり、机を叩いたり、「そんなことやってると、よその子にしちゃうよ」とか、「目標を達成できなかったら、もうクビだ」とか……。

 

恐怖心や不安感を使えば、相手を強烈に行動させることができます。誰も怖い目に遭いたくはないですからね。しかし、その反面、精神的なストレスで体を壊したり、うつ的になったり、言われたことはやるけれど、自発的には何もしなくなったりという副作用が見られるようになることもあります。そして、恐怖や不安を与える人と受ける人との信頼関係が壊れてしまいます。すると、小さいときには暴力で言うことを聞かせていても、子どもが成長して親との体力差が逆転したときに、ひどい反撃を受けるというような可能性だってあります。

 

まずは安心感を与えるのが基本。その上で、しつけなり、指導なりをするように心がけましょう。

楽しみの欲求

第2の基本的欲求は、「楽しみの欲求」です。これは、ただ単に生きていればいい、何も問題がなければいいというのではなく、楽しいこと、気分の良いことをしていたいという欲求です。

 

たとえば、人は、生活するために必要だから、すなわち生きていくために必要だから買い物に行きます。しかし、そればかりでなく、買い物の課程で、家族や友だちやお店の人とおしゃべりしたり、いろいろな商品を手に取ったり、試着したりすることが楽しいから行くという面もあるのではないでしょうか。

 

食事を、ただ栄養の面だけ考えて出すのは、家族の生存の欲求しか満たしません。アメリカの主婦は、食事を用意するのと同時に、食卓の楽しい話題も用意すると聞きました。

 

家庭や職場や学校が、楽しみの欲求をも満たせる、楽しみに満ちた場になるよう工夫してみましょう。そして、ご自分に関しても、生活の中に楽しみをちりばめましょう。

自由の欲求

5つの基本的な欲求の第3は、「自由の欲求」です。自分のことは自分で選び、自分で決断し、自分で実行したい、という欲求です。これには、自分でやったことに関しては、自分で責任を負いたいという欲求も含まれます。これを尊重されることで、子どもは自立を学びます。

 

もちろん、自由の欲求を満たすというのは、何でも好きなようにさせるということではありません。

 

そもそも、私たちは完全な自由など持っていません。たとえば、私たちはさまざまな物理法則に縛られています。だから、「俺は何ものからも自由だ!」と言って2階の窓から飛び出すと、万有引力の法則に従って地球の中心に向かって移動し、つまり落下して、大ケガをすることになるでしょう。また、社会で快適に生きていくためには、様々なルールに従わなくてはいけません。

 

限界は設定しながらも、その範囲の中で相手に選んでもらうようにすると、自由の欲求が満たされます。

 

あるお宅の話

このお宅には「食事中は食卓では泣かないと」いうルールがあります。食事中に泣く場合は、廊下で泣く。これは、家族が楽しく食事をするためのルールです。

 

さて、このお宅の一番下のお子さんは4才ですが、好き嫌いがあって、ピーマンが大嫌いです。ある時、食卓にピーマンが出たために、この子が「ピーマンは嫌いだ」と泣き出しました。すると、お父さんが穏やかに。「廊下で泣く? それとも泣きやむ?」と言いました。

 

これは、「食卓では泣かない」というルールは厳格に守らせながら、泣くか泣きやむかを決める自由を子どもに保証しているわけです。

 

4番目と5番目の欲求については、次回にお話しします。

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