スクールソーシャルワーカーだより

仮説検証の場としての学校・家庭

年末、本棚の整理をしていたら、大学時代の教科書が出てきました。「教育工学」というクラスで使ったものです。教育工学とは何ぞやということについてはここでは説明しませんが、講義の冒頭で教授が語った言葉については、教科書を見たとたん、克明に思い出されました。それだけ印象的だったのでしょう。

 

その言葉とは、「授業は仮説検証の場である」という言葉です。今回は、この言葉についてお話しし
てみたいと思います。

仮説検証の場とは

仮説というのは、

 

「こういう特性を持った子どもに対して、こういう教材を、こういう方法で提供したら、こういう態度や能力を身につけるのではないか」

 

という予想のことです。

 

そして、その仮説に基づいて授業をし、本当に期待した態度や能力を身につけられたかどうかを検証します。たとえばテストを受けてもらったり、行動を観察したりすることで。大切なのは、「これだけやったんだから身についたはず」「これくらいの練習ではまだまだ足りない」と、教師の印象や勘だけで判断するのではなく、できたかできないかを客観的な証拠をそろえて判断することです。

 

その検証の結果、当初の期待通りの態度や能力を身につけることができたと判断できれば、その仮説は正しかったということであり、期待通りでなければ、その仮説は間違っていたということです。

 

仮説が間違っていたということは、子どもの特性をとらえ損ねていたのかもしれないし、教材の選定が間違っていたのかもしれないし、その提供方法(授業のやり方)が間違っていたのかもしれないということです。それを検討し、改めて別のやり方で関わっていきます。

 

これが「授業は仮説検証の場である」という意味です。

 

冷たくないですか?

最初、教授のこの言葉に対して、私を含むほとんどの学生が反発を感じました。教室を実験室か何かのようにとらえ、子どもたちをモルモットか何かのようにとらえているように感じ、人間味を感じられなかったからだろうと思います。愛情とか、熱意とか、人格の尊厳とか、そのようなものを否定された気がしたのです。一言で言うと、「冷たい」と。

 

しかし、今振り返ってみると、教授が言いたかったことがよく分かる気がします。

教育・子育てに科学的な視点を

医は仁術と言います。確かにその通りです。患者に対する尊敬とか、愛情とか、病気を治したいという熱意とか、いのちに対する畏怖とか、そのようなもののない、単なる上昇志向やお金儲け主義の医者にかかりたいとは思いません。

 

しかし、やる気はあるけれど技術はないという医者に、自分の命を預けたいとも思いませんよね?

 

教師が子どもたちを愛し、子どもたちの知情意や健康の育成に対して熱心であるのは当然のことであって、子どもたちに授業をする以前の問題です。そんなものをわざわざ教育工学のクラスで取り上げる必要はない。教授はそう言いたかったのでしょう。

 

そして、単なる熱心の空回りにならないように、子どもたちの成長を邪魔せず、むしろ促進することができるように、教育の「技術」を磨いていくことが大事なのだと。そのためには、単なる精神論で終わることなく、仮説→実践→検証→仮説の修正→再実践……という「科学的な」視点や方法論を身につける必要があるのだよ、と。

 

家庭でも科学的子育てを

教育は、子どもたちに対する愛情の表れです。と同時に、科学でもあります。そのどちらの側面も大切です。そして、これは、学校の授業だけでなく、クラブ活動でも、生活指導でも、そして家庭の子育てにおいても必要な認識です。

 

教師の場合、大学や研修会などで専門的な訓練を受け、ある程度科学的子育てについての知識を得、実践のための訓練も受けています。しかし、親になるための専門的訓練を受けたという人は極めてまれ。ですから、ついつい自分が自分の親からされたように子どもに接してしまいがちです。その中には、客観的に見れば効果のない方法、逆に悪影響を及ぼすような方法も見受けられます。心当たりはありませんか?

 

そこで、保護者の皆さんも、「仮説→実践→検証→仮説の修正→再実践」という科学的な子育てを意識して実践する必要があります。してみませんか? 子育てに、新たな視点が加わるかもしれませんね。

 

今年度は、これでおしまいです。来年度もよろしくお願いいたします。お子さんが中学校を卒業なさったご家庭でも、いつでもご相談に応じます。子育てに困ったときには、ぜひお声かけを。それでは。

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