スクールソーシャルワーカーだより

魔女の呪い

前回の「正義の味方と悪の組織」の話は、特に40代以上の男性陣から大反響をいただきました。今回は「魔女の呪い」について。もちろん、今度は女性受けを狙ってのことではなく、「子どもたちに自己肯定感を持ってもらう」というテーマの続きです。

二重の命令

他の子に比べて動作のゆっくりなお子さんがいます。親や先生が、「早くしなさい。まったくグズなんだから!」と叱ります。それは、その子のためを思ってのことです。せめて人並みのスピードで行動できるようになってもらいたいという、真実な愛情から出たことです。

 

しかし、その子の心はちょっと困った事態に陥ります。二つの矛盾する命令を受け取って、混乱してしまうからです。一つは、文字通り「もっと素早く行動しなさい」という命令です。そして、もう一つは「グズグズ行動しなさい」という反対の命令。

 

え? そんな命令なんかしていないって? その通りです。表面上は、周りの大人たちはそんな命令をしていません。しかし、子どもたちの心はそう受け取ってしまうのです。

 

無意識は現在のことしか分からない

動作のゆっくりなお子さんに対して「早くしなさい。まったくグズなんだから」と叱るのは、もちろんパッパと素早く行動できるようになってもらいたいからです。しかし、それは将来の話。現在のその子についてはどう評価していますか? そう、「今のあなたはグズだ」ですね。

 

問題は、私たち人間の無意識は、時間の区別ができないということです。未来のことも過去のことも、すべて現在進行形で受け取ってしまいます(だから、震災はもう2年以上前の出来事なのに、そのときのショックを今も引きずって苦しむ人がいるのです)。

 

期待とは逆の洗脳

ということは、「早くしなさい」と子どもに言い続けると、「早くしなさい」という表面の命令の他に、「おまえはグズなんだぞ。いいか、おまえは素早く行動できない子なんだぞ」とダメ押しをしているのと同じことになってしまいます。すると、子どもの無意識は、「そうか、僕はグズなんだな」と信じ、その確信に従って、グズにふさわしくグズグズ行動します。すなわち、子どものグズにイライラしながら「早くしなさい」と叱り続けることは、「おまえはグズだ。だから、これからもグズであり続けろ。ますますグズになれ」と命令、あるいは洗脳しているようなものだということです。

 

素直なお子さんは、これら二つの矛盾する命令のどちらに従ったらいいか分からずに悩みます。ただ、意識と無意識が対立すると、たいていは無意識の方が勝つので、無意識の方の命令「グズであれ」を採用してしまいます。結果、ますますグズ。

 

しかも、「グズではだめだ」という表面のメッセージも生きていますから、「私はだめな子だ」と、自己肯定感、自尊感情も削り取られていきます。そして、できることまでできなくなっていく……。心理学者エリック・バーンは、このような裏表二重の矛盾する命令を「魔女の呪い」と呼びました。

呪いではなく、祝福の魔法を

大切な子どもたちのために良かれ思って、知らぬ間にかえって可能性を摘み取るような呪いなど、施したくはないですね。むしろ、子どもたちのプラスの可能性を引き出す、祝福の魔法をかけてやりたいことでしょう。

 

「この子、もう少し素早く行動できないかしら」と思い、ついつい叱りたくなったときには、いったんぐっと我慢しましょう。そして、作戦を練ります。どう伝えたら、祝福の魔法になるかしらと考えるのです。

 

おすすめは、「早くおいで。○○ちゃんのこと、早くだっこしたいから」とか、「早く着替えようね。そしたら、いっぱい遊べるよ」と、早く行動できたらどんなにいいことが待っているかを添えて伝えること。しかも、「あなたはダメ」が伝わらないよう、優しい表情や言い方で伝えることです。

 

そして、その行動が終わったら、他の子と比べて遅かろうが何だろうが、とにかく「早く来てくれて、うれしい!」とか、「早く着替えられたね。いっぱい遊べるね」と、プラスに評価すること。すると「あなたは素早く行動できる子だ」という無意識のメッセージが伝わって、だんだん素早く行動できるようになるでしょう。しかも、自己肯定力も育ち、自信を持っていろいろなことにチャレンジできるようになります。お子さんが中学生でも遅くありません。たっぷりと祝福の魔法を!

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