スクールソーシャルワーカーだより

日本語が通じない

子どもに指示をしたり、教えたりしても、子どもはまったく言う通りにしてくれない。その内容は決して理不尽ではなく、至極まっとうなものなのに、動いてくれない。そんなときには、ついついカッカと来てしまい、どんどん表情や言葉がきつくなってしまうものです。

 

でも、ちょっと待ってください。そもそも、子どもにちゃんと言葉が通じているのでしょうか? 今日は、そんなお話です。

 

子どもの発達特性による場合

子どもになかなか言葉が通じない原因のひとつは、お子さんの側が、「聞いて理解する」能力や、「表情やこれまでの話の流れなど言語以外の情報から相手の気持ちや考えを読み取る」能力(いわゆる「空気を読む」能力)などに弱さを抱えている場合です。

 

「発達障がい」のお子さんの中には、全体的な知能は高くても(中にはクラスでトップの成績を取る子もいます)、読む・聞く・書く・計算する・人の感情を読み取るなど、特定の、あるいはいくつかの作業がとても苦手だという子もいます。こういう特性を持ったお子さんの場合は、単に言葉かけだけでなく、文字や絵や図を併用し、ゆっくりていねいに相手が理解していることを確認しながら説明するなどの工夫が必要でしょう。

 

また、集中するのが苦手なお子さんや、逆に集中すると周りが見えなくなるほど没頭してしまうお子さんの場合には、ちょっと声をかけただけでは、自分に向かって語られていると気づかない場合があります。その場合、「ちょっとこっち見てね」と顔と顔とを合わせて、まずこちらに注意を向けてから語りかける必要があるでしょう。

 

脳内辞書がそれぞれ違うことを配慮しない場合

ある高校の世界史のテストで、こんな問題が出ました。「宗教改革を行ったマルチン・ルターは何人か?」 すると、多くの生徒がこう答えました。「一人」。もちろん、世界史の先生は人数を尋ねたのではなく、国籍を尋ねたのですが(ルターはドイツ人です)、残念ながら通じていなかったようです。

 

脳内辞書

一人一人の頭の中には、単語や言い回しに関してどんな意味なのかを定義した「脳内辞書」があります。そして、同じ日本語、同じ福島弁を話す人たちでも、一人一人厳密には異なる脳内辞書を持っています。たとえば、「家に帰ったら自学する」とは具体的にどういう行動を取ることなのか、どれくらいの時間をそれに費やすのか、一人一人違った意味づけをしているということです。

 

そして、人は自分の脳内辞書に従って言葉を発します。ところが、聞く方は、語り手の脳内辞書ではなく自分の脳内辞書を使って、その言葉を理解しようとします。ここでコミュニケーションギャップが生じてしまうのです。

 

伝わるように工夫しよう

こちらの言いたいことを誤解なく伝えたり、コミュニケーションを豊かにし、他の人と仲良くしたりするコツは、「人は、こちらの言葉を、こちらが思っているほど、こちらの意図通りに解釈しないものである」ということを覚悟すること。そして、「どうして分からないの?」とイライラする代わりに、「どう表現したら分かってもらえるだろうか?」と自問することです。

 

子どもに「ちゃんとあいさつしなさい」と言うだけでは、「ちゃんとあいさつする」とはどういうことか、子どもはもしかしたら誤解するかもしれませんね。そこで、たとえば「道で知り合いに会ったら、おうちでお母さんとお話ししているくらいの大きな声であいさつしようね」などと、こちらの意図をより具体的に、ていねいに伝えることが必要かもしれません。

 

「勉強しなさい」とは、何をどのようにどれくらいの時間行なうことを意図しての発言でしょうか? 「真面目にやれ」とは、具体的にどんな行動を問題にしており、なぜその行動が問題で、そして代わりにどのような行動を期待しての叱責なのでしょうか?

 

これは、親子の会話だけの問題ではありません。夫婦、上司と部下、友人関係など、様々な場面で「相手は、こちらが意図したとおりに解釈しないものだ」ということを覚悟して話をする必要があります。

 

その点、私の家内は指示が上手です。今朝も、「家を出るときに、家中の燃えるゴミを集めて、その袋を集積場に出しておいてね」。なので、伝わらなかったふりはできないのであります……。

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