スクールソーシャルワーカーだより

転ばぬ先の杖

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 

転ばぬ先の杖」という言葉があります。元々は「前もって用心していれば、失敗することがない」ということを表す教訓的なたとえですが、最近では特に、「子どもが失敗したり、苦しい思いをしたりしないよう、親が子どもの代わりにあれこれと先回りして配慮する様子」を、否定的なニュアンスで表す言葉としても用いられるようになりました。

 

このせいで病んだのだ

Aさんの息子さんは、ずっと不登校で、成人してからも引きこもっていました。本人はカウンセリングを受けようとしませんでしたが、母親であるAさんがカウンセリングを受けて成長していくにつれて、だんだんと間接的にエネルギーに満ちていき、やがて建設会社でアルバイトをするまでになりました。

 

ある寒い冬の日、息子さんの帰宅が遅くなりました。そして、夜10時頃に戻ってきました。Aさんは、息子さんがうがいや手洗いをしている間に、夕飯の残りを温めて食卓に並べました。そこに息子さんが入ってきました。そして、ずらりと並んでいる夕飯を見つけると、うんざりした表情でAさんにこう言いました。「お袋。俺はこのせいで病んだのだ」。

 

Aさんは面食らいました。そして、納得できない思いに満たされました。だってそうでしょう。子育てや家事にいっさい協力せず、妻を奴隷のように扱い、気に入らないことがあればすぐに怒鳴り散らし、文字通りちゃぶ台返しをするような横暴な夫や、すぐに感情的になり、些細なことでねちねちと嫌みを言う姑にも忠実に仕え、学校に行かない息子を一人で支え続けたのは自分です。夫や姑のせいで病んだのだというのなら分かりますが、なぜこの私を非難するのか。せっかく、寒い中がんばっている息子に温かい食べ物をと配慮したその行為を、よりにもよって「このせいで病んだのだ」などとはどういう了見か!

 

どうして?

しかし、カウンセリングで心の筋肉が強くなっていたAさんは、そこで逆ギレすることなく、冷静に尋ねることができました。「どうして?」と。すると、息子さんが説明してくれました。

10時近くまで、食事も摂らせないで働かせる会社があるだろうか。食事のための休憩をくれるだろうし、場合によっては会社の方で用意してくれるだろう。実際、俺は食事をしてきて、もうおなかがいっぱいだ。にもかかわらず、こんなふうに食事を用意されたら、俺はこう思うんだ。

「お袋は、寒い中、俺のために食事を用意してくれたのか。本当は食べたくないけれど、食べなきゃお袋に悪いな」。
これって、俺のためじゃなくて、お袋のためになってるよね? こうして、俺はお袋にあれこれ余計なお世話を焼かれるたびに、エネルギーを吸い取られてきたんだ。

 

さらに息子さんは言います。

それにだ。こんな世の中だもの。コンビニは24時間開いてるし、スーパーだって11時までやってる。おなかがすいたら自分で食べ物を調達できる。俺、もう大人だよ。俺のこと幼稚園児だとでも思ってるの? お袋が俺のためにあれこれと転ばぬ先の杖をついてくれるたびに、俺は馬鹿にされた感じがして頭にくるんだ。

 

Aさんは息子さんの言葉にショックを受けましたが、「こんなふうに言えるようになったのは、息子が成長した証拠だ」と考え、泣いたり言い訳したりしないでこう言いました。

そうか、それは申し訳なかったね。でも、お母さんは親としてお前のことを応援したい気持ちもあるんだよ。そんなときにはどうしたらいい?

 

すると息子さんは言いました。

それだよ。そんなふうに尋ねてくれたらいいんだ。「今日は夕食どうする?」って。そしたら、俺は「今日は食べてきたからいらないよ」とか、「今日は現場が忙しくて食べる暇がなかったんだ。悪いけど作ってくれる?」とか答えられる。そうして用意してもらった夕食なら、俺は感謝していただくことができる」。

 

何かできることはない?

私も人の親として、子どもがつらい目に遭ったり、失敗したりして欲しくないと思ってしまいます。しかし、だからといって、子どもの代わりに考えたり、決断したり、行動したりするのは余計なお世話であり、子どもに嫌な思いをさせたり、子ども自らが問題を解決していく力を奪ってしまうことになったりしかねません。

 

「お父さんやお母さんは、いつでもお前の味方だし、必要があればいつでも助けになりたいと思っている。お父さん(お母さん)にできることない?」 そんな態度で子どもたちに関わってみるのはどうでしょうか。

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