スクールソーシャルワーカーだより

ありがとうの力

間もなく、お子さんの卒園・卒業、修業ですね。この一年も、みんな本当にがんばっていました。4月のお子さんと今のお子さんを比較してみてください。どんなことができるようになりましたか? どんな態度が身につきましたか? ぜひご家族で話し合って、この一年のがんばりをたたえましょう。

 

さて、年度の締めとして、私たち周りの大人が、子どもたちから生きる力とか、問題に立ち向かっていくやる気や根気を引き出すヒントをお話しさせていただきます。

 

本田宗一郎氏の話

世界のホンダの創業者、本田宗一郎さんは、66歳の若さで社長職を退くと、会長職にも就かず、日本中、世界中のホンダの事業所(営業所、販売店、工場)を巡り歩いたそうです。日本だけで700箇所、海外の事業所を含めれば膨大な数になります。それらを、従業員が2,3人しかいないような地方の店や工場も含め、すべて回りました。

 

そして、それぞれの事業所では、従業員一人一人の手を握って、「ありがとう。いつもありがとう」と頭を下げます。整備士が、オイルで汚れた自分の手を洗いに行こうとすると、それを止めて「この油まみれの手が尊いんだ」と、そのまま握手することを求めたとも言われています。

 

周りの人たちはこう尋ねました。「創業者自らが事業所に現れ、手を握ってくれたら、従業員のモチベーションが上がり、みんながんばって仕事をするようになって、ますます儲かる。だからあんなことをしているのでしょう?」と。しかし、本田さんはそうではないと言いました。「本当にみんなのがんばりをありがたいと思っている。だから、ただただお礼を言いたくて回っているんだ」と。

 

「ほめて、やる気にさせて、思い通りに動かしてやろう」なんて裏の策略がない、本気の感謝で握手するので、握手してもらった従業員はみんな感動して涙を流します。その涙を見て、本田さんも泣きながら握手を続けます。結果として、従業員のやる気は急上昇です。あくまで、結果として、ですが。

 

ありがとうは魔法の言葉

人はほめられると、やる気が生まれます。しかし、「ほめる」には危険な側面もあります。「ほめる」は評価であって、ほめ手の要求通りのことをしているうちはほめられますが、十分だと評価されなければ無視され、気に入らないことをしてしまうと叱責されることになる、という危険です。

 

そこで、単に結果だけをほめられて育つ子は、周りの大人の反応を気にしながら成長していきます。そして、かえって「何が起こっても、自分は必ず乗り越えられる」というような無条件の自信、「だから、失敗を恐れずいろんな事にチャレンジしよう」という積極性、誰も見ていなくてもやるべき事をやり通すという責任感、誰かに強制されなくてもやるという自発性などが育ちにくくなります。

 

ほめるなら、いつでも、結果が好ましくないときでも、とにかくほめましょう。そのためには、

  • 結果だけでなく、チャレンジしたことそのものをほめましょう。
  • 失敗したけれど、やりきったことをほめましょう。
  • あれこれ工夫してみたことをほめましょう。

すると、やる気に満ちた、責任感の強い子に育ちます。

 

さらにやる気や責任感を引き出す言葉かけ

そして、ほめるよりもさらにやる気を引き出し、責任感や自信を育てるのが「感謝」です。「ありがとう」という言葉には、強烈なエネルギーがあります。どうぞ、日頃からお子さんに「ありがとう」をシャワーのように注いでください。

 

感謝の種が見つからなければ、感謝できるような仕掛けを施しましょう。たとえば、家事を分担させるとか。お子さんの年齢や能力に応じて、新聞を郵便受けから取ってくるでも、食事後に食器をシンクまで運ぶでも、何でもかまいません。大切なことは、それを子どもがやったなら、「当たり前だ」と無視なんかしないで、必ず「手伝ってくれてありがとう」「助かるよ、サンキュー」などと感謝を表しましょう。

 

あなたも、毎日仕事に行ったり、食事を作ったりするのを、「それは親として、夫として、妻として、やって当然のことで、別に偉くも何ともない」と無視されるより、「いつもご苦労様。私たちのためにありがとう」とか「毎日家族のためにおいしい料理を作ってくれてありがとう」と感謝され、ねぎらってもらえる方がやる気が出るでしょう? 子どもたちも同じです。皆さんのお宅はすでにそうなっていると思いますが、ますます感謝の言葉が乱れ飛ぶご家庭になれますように。

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