スクールソーシャルワーカーだより

「どうして?」と問う前に

遠距離恋愛中のOLさん(花子さんということにしましょう)が、3ヶ月ぶりに彼(太郎くんということにしましょう)とデートすることになりました。ところが太郎くんには悪い癖があります。遅刻魔なのです。今日もやっぱり時間通り現れません。さて、どんな顛末が待っていることでしょうか? 今回はそんな話から始めてみましょう。

 

答えは内にあり

約束の時間を10分過ぎても、20分過ぎても太郎くんは現れません。待っている間、花子さんはだんだん頭に血が上っていきます。そして、30分を過ぎた頃には、彼が現れたらこんなふうに言ってやろうと思いました。

もう! また遅刻して!
あなたは、どうしていつも遅れてくるのよ。
もう信じらんない。私のこと、何だと思ってるの!?

 

花子さんの質問に答えてみましょう

さて、ここで読者の皆さんに質問です。「太郎くんはどうしていつも遅刻するのでしょうか?」 そして、「太郎くんは、花子さんのことを何だと思っているのでしょうか?」

 

いろいろ想像することはできますが、本当のところは太郎くんに聞いてみないと分かりません。ただ、花子さんの中には、「きっと太郎のやつはこう思っているに違いない」という「答え」が用意されています。それは……

おまえのことなんかどうでもいい女だと思っている。
だから平気で遅刻できるんだ。

です。

 

もし本当にそんなことを思われているとしたら、花子さんとしては悲しいですね。そして、そんなひどいことを思っている男に復讐したくなるかもしれません。だから怒りを込めて、「どうしていつも遅れてくるの? 私を何だと思っているの?」と質問しています。決して答えが聞きたいわけではありません。相手を追い詰め、攻撃するための言葉です。

 

ホントにそう?

花子さんの頭の中には、きっと自分は太郎くんに大切に思ってもらっていないという「答え」があり、それで頭にきていました。しかし、本当に太郎くんがそんなことを思って遅刻したかどうかは分かりません。

 

普段から時間に正確な人の場合(花子さんはこのタイプです)、その人が遅刻するとしたら、それはよっぽどの理由があるときです。だからこそ花子さんは、「私が大切じゃないから遅刻できるんだ」という理由付けをしたのです。ところが、普段から遅刻の多い人は、別に何も考えずに遅刻します。一種のビョーキみたいなもので、全然悪気がなかったりします。

 

太郎くんの、花子さんのことを大切に思う気持ちに嘘はないのかもしれません。そのことと遅刻することとは、全く別次元の話なのかもしれないということです。私たちも、勝手に人の気持ちを否定的に読み取って、怒ったり、悲しんだり、不安になったりすることって、案外あるかもしれませんね。

 

本当に伝えたいことを伝えよう

そんなことを思って、花子さんはちょっと気持ちが落ち着いてきました。そして、「どうしていつも遅れてくるのよ。私のこと何だと思っているの?」というような言い方では、かえってケンカになったり、気まずくなったりして、せっかくのデートが台無しになってしまうと気づきました。花子さんは、決して太郎くんとケンカをしたいわけではありません。楽しくデートがしたかったのです。

 

そこで、花子さんは自分が本当に伝えたいことを整理してみました。彼に伝えたいことは、待ち合わせ時間を守って欲しいということ。なぜかといえば、大好きな彼と、一分一秒でも長く一緒にいたいからです。それなのに、太郎くんが時間通り来ないから、悲しくなったのです。

 

40分遅れて、しかも悪びれもせずに太郎くんが現れた時(まったく。太郎くん、やってくれますね!)、花子さんは言いました。

私、あなたのことが大好きなの。久しぶりに会えるんだから、できるだけ長く一緒にいたかったの。遅刻されるともったいなくて悲しい。だから、待ち合わせ時間を守ってね」(にっこり)。

これで太郎くんの遅刻癖が改まるかどうかは分かりませんが(なにしろビョーキみたいなものなので)、少なくともその日のデートは楽しく過ごすことができました。

 

お子さん(や配偶者や、他の家族、友だちなど)の言動に頭にきて、つい「なぜ」「どうして」という言葉を使いたくなるときがありませんか? そんなときは、ちょっと深呼吸して、本当に伝えたいことは何かと自問して、それをストレートに、そして攻撃的ではない言い方で(すなわち穏やかに、だたし毅然と)伝えることができたらいいですね。

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