スクールソーシャルワーカーだより

バイオリンがオーケストラなのではない

テレビでオーケストラの演奏を聴いていて、以前受講したセミナーのことを思い出しました。講師がこんなことをおっしゃったのです。「バイオリンがオーケストラなのではない」。講師は「前田敦子さんがAKB48なのではない」ともおっしゃったのですが、ちょっと例話が古いので、オーケストラの話を取り上げることにします。

 

「部分」という考え方

バイオリンは、オーケストラの大切なパートの一つです。でも、バイオリンだけがオーケストラを構成しているわけではありません。チェロだって、トランペットだって、フルートだってオーケストラの大切な一員です。バイオリンは数も多いし目立ちますが、ファゴットやチューバのように、割と裏方を担当することが多い楽器だって、素晴らしい音楽を作り上げていく上で、なくてはならない大切な存在です。

 

私たち人間をオーケストラに例えてみましょう。私という個人は、分割できない一まとまりのトータルな存在ですが、同時にたくさんの「部分」の集合体でもあります。まるで、一つ一つの楽器(パート)がそれぞれ個性的な音色を奏でながら、一つのオーケストラとして美しい音楽を紡ぎ出していくようなものです。

 

以前、私の長女が3歳になる直前の頃、ディズニーランドで迷子になったという話を書いたことがあります(2009年8月号)。娘が見つかったとき、私は「黙っていなくなったらダメでしょう!」と怒りをぶつけそうになりましたが、それは心配だったからです。また、見つかって良かったという安堵感もありました。感情だけに注目してみても、私たちは同時にいくつもの感情を同時に体験していることが分かりますね。全く正反対の感情を同時に持つことだって、決しておかしなことではありません。

 

ところが、私たちはついつい目立つ感情にばかり注目して、その他の感情に気づいてあげられないことがあります。私が娘を怒鳴りつけそうになったときは、幸いにも他の感情にも気づくことができました。そして、心配や安堵感の方を伝え、「もう黙っていなくなったら嫌だよ。どこかに行きたいときにはお父さんたちに言ってね」と適切にしつけることができました。もし、頭ごなしに怒鳴りつけていたら、きっと娘の小さな心が傷ついただけで、どうして叱られたかも理解できず、また迷子になるようなことをしでかしたかもしれません。

 

性格も同じ

人の性格も、様々な部分の集合体です。私は自他共に認める優柔不断な男です。じゃあ決断力や行動力がまるっきりないかといえば、そんなことはありません。未だに新婚アツアツのように仲がいい家内との結婚は、私からのプロポーズによって成立しました。断られる可能性だってゼロではないし、結婚したら鬼嫁に変わったという危険だってないとは言えません。しかし、私は思いきって大胆不敵にも結婚を申し込むことができました。たいした決断力、行動力だと思われませんか? そういう「部分」だって、ちゃんと私の中に存在しているのです。

 

同様に、怒りっぽいと言われる人だって、穏やかに人と接することができます。あの人は嘘つきだと陰口を叩かれるような人だって、実は本当のことを言っていることの方が多いはずです。だから、「自分はこういう人間だ」「あの人はこういう性格だ」と単純に決めつけるのはやめにしましょう。お子さんのことも、あなた自身のことも。そうでないと、せっかくの豊かな可能性を否定し、潰してしまうことになります。

 

逆に、自分や他の人の中に様々な「部分」があることを認めれば、豊かな可能性が実際に花開きます。実際、私も自分にけっこうな決断力や行動力があることを認めたとき、以前よりもずっといろいろなことにチャレンジできるようになりました。

 

○○な部分がある

ですから、まるでその人の全部がそうであるかのように、「あの人はこう思っている」「あなたってこういう性格よね」と決めつけないで、「あの人の中に、こう思っている部分がある」「あなたにはこういうところがあるよね」と表現してみましょう。時には、あえて目立つ感情や性格の真逆を口にしてみるといいです。たとえば、お子さんに対して「この子、人の話をちゃんと聞かずに困るなあ」と思ったら、あえて「この子には、話をしっかり聞ける部分がある」「あなたって、一生懸命人の話を聞けるところがあるよね」と口にしてみましょう。

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