2017年10月号
コンビニエンス・ストアでトイレを借りると、壁にこんな紙がよく貼ってあります。
「きれいに使っていただき、ありがとうございます」。
言いたいことは、「きれいにお使いください」であり、さらに言えば「汚さないでください」ということです。しかし、このような言い方をされると、何となく気持ちがいいですね。同じことを言われるにしても、言い方ひとつで、感じ方、受け取り方がずいぶんと変わるものです。
人は期待に応えようとする
コンビニのトイレの言葉は、「あなたは、トイレをきれいに使ってくださる方です」というメッセージを含んでいます。すると、私たちはそのイメージを崩さないように行動しなければと、無意識に思うようになります。そして、結果的に期待通りの行動をするようになるのです。
友だちやきょうだいに乱暴する子どもを叱る際、「ホントにあなたは、乱暴なんだから。乱暴はやめなさい!」と言っていたらどうでしょう。子どもは、「あなたは乱暴な人間なのだよ」というメッセージを受け取り、そのイメージにふさわしく行動しようとします。乱暴者が優しい言動をしたらおかしいですから、結果として、ますます粗暴になるでしょう。
肯定的な評価を伝えましょう
ですから、「この子、ちょっと乱暴で困るなあ」と思ったら、むしろ「この子は優しい子だ」という目でお子さんを見つめてみてください。きっと、優しい行動を取っている場面がたくさん見つかるはずです。どんなにグズな子どもだって、時間通りに行動できる場面がありますし、どんなに嘘つきと言われる人だって、本当のことを言っている場面がたくさんあります。
そして、心を込めて「○○ちゃんは優しいね。だって、こんなことをしてくれたもの」と、語りかけてあげましょう。それを繰り返していくなら、きっとその子は、期待に応えて望ましい言動をしてくれるようになるでしょう。
どうしても乱暴な行動をとがめなければならないときでも、「あなたは乱暴だ。そんなことをしてはダメだ」というニュアンスではなく、「
あなたは優しい子なんだから、そんなことをしてはいけないよ」というニュアンスで伝えられるといいですね。
人格を認める言葉
ほめたり叱ったりするときのコツがあります。それは
「ほめるときは人格(性格、性質)をほめ、叱るときは行動を叱る」です。人格を叱らないで行動を問題にするというのは、上述のように否定的な自己イメージを持たせないためです。
一方、行動(100点取ったとか、お手伝いしたとか)ばかりほめていると、ほめられないと何もしなくなる子に育つ恐れがありますが、人格をほめると、上述のように自発的に望ましい行動をする子に育ちます。
あなたは素晴らしい人です
本棚の整理をしていたら、カウンセリングの勉強をしていた頃のノートが出てきました。話の聴き方の技術の一つに、相手の言った言葉をそのまま、あるいは要約して相手に返すというものがあります。その練習のとき、こんな例題が出ました。
「子どもたちにセーターでもと思うのですが、忙しさにかまけて、つい作れないでおります」。
教科書的な解答とすれば、
「お忙しいために、なかなかセーターを編めないでいらっしゃるのですね?」
というようなところでしょうか。ところが、指導してくださった先生はこういう答えを示されました。
「お忙しい中でも、お子さまたちにセーターを、と?」
当時の私は、よっぽど感動したのでしょう。真っ赤な大きな字で、先生の答えをノートしていました。
自分の人格、存在を強烈に肯定されると、私たちはやる気、元気、根気が引き出され、肯定的なイメージにふさわしい行動を引き出されます。きっと、これをお読みのあなたも、お子さんやご家族や同僚や近所の人たちにそのようなメッセージをたくさん発信しておられることでしょう。これからも「あなたは素晴らしい存在だ」というメッセージを、繰り返し繰り返し周りの人たちに伝えられるといいですね。