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福島県大玉村 スクールソーシャルワーカーだより

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〒969-1302 福島県安達郡大玉村玉井西庵183

感謝の心


2018年7月号
元々は歌手だった武田鉄矢さんが俳優になるきっかけとなったのが、寅さんシリーズで有名な映画監督の山田洋次さんの作品、「幸せの黄色いハンカチ」でした。武田さんは、自伝の中でこのときのエピソードを書いておられます(「母に捧げるバラード」集英社文庫)。

山田監督の体験談

武田さんは、「幸せの黄色いハンカチ」の中でとても重要な役を与えられました。ところが、俳優としてはまったくの素人。度重なる失敗に、すっかり自信を失ってしまいます。そんなある夜、山田監督は武田さんを自分の部屋に呼び、自分の若いときのことを話し始めたのです。
ある時の撮影では、もう無我夢中で、そうしながら苦労してやっと撮りおわった。とても苦しい仕事だったなぁ。そのフィルムをつなぎあわせて一本の映画にするわけさ。

やっとできあがって見ると、これがおもしろくもなんともないんだよ。ショックだったなぁ。ひどいできなんだ。これが作品となって映画館で上映されるなんて、もういやでね。もう一回、もう一回、はじめから撮りなおさせてくださいって叫びたいくらい。でも公開は決まって、そんなことはできるわけがない。もう、つらくてつらくて。

そしていよいよ映画館で上映。ぼくはこっそり見にいったんだよ。そのひどいできの映画を。いえね、なんか、お客さんにすみませんってあやまりたくって。そして席にも座らず一番後ろの暗がりに立っていると、おどろいたね。お客さんが笑ってくれるんだよ。楽しそうに手をたたいて笑ってくれるんだよ……。ぼくはそのたんびに小さな声でありがとうございます。ありがとうございますって。涙が出てねえ。

映画が終わるとぼくは入り口のもぎり台の所に立って、気づかれないように、お客さん一人ひとりに頭を下げたんだ。あの時、もしあの笑い声を聞かなかったら、あの人たちに会わなかったら、とっくにやめていたね。こんなつらい仕事。あの映画館に来ていた人たちにもう一度、楽しそうに笑ってもらえる映画がつくりたいねえ。

ありがとう

私は、日本語の中で最も美しい言葉の一つは、「ありがとう」だと思っています。感謝は、
  • 世のため人のために何か価値あることをしたいという、やる気を生み出します。
  • どんなに失敗しても困難が立ちはだかっても続けていこうという、根気を生み出します。
  • 自分自身を粗末にせず大切にしようという、真の自尊心を生み出します。
  • 様々な面で成長したいという、向上心を生み出します。
  • どんな状況の中でも喜び、希望を見いだすことができる精神的な強さを生み出します。
私たちが見守り育てている子どもたちにも、様々な人や状況に感謝できる豊かな心を養って欲しいですね。

感謝の反対語

ありがとうは「有り難し」、すなわち「あり得ないようなことをしていただいた」という感動の言葉です。ですから、ありがとうの反対は「当たり前」です。人から何をしてもらっても、今置かれている状況がどんなに恵まれていたとしても、「当たり前だ」と思っていたら感謝は生まれません。むしろ、不平不満や怒りや空しさがいつも湧き出してくることでしょう。無意識に当たり前だと思ってきたことが、実は当たり前ではないと気づくところから、感謝は始まります。

ある時、高校生のお子さんを持つ知り合いの主婦から電話をもらいました。泣いています。どうしたのかと聞けば、「今日、息子が服を着ました」という返事。皆さんは、お子さんが服を着て、感動して泣いた経験がありますか? 実は、この方の息子さんは強迫神経症という心の病にかかり、いわゆる潔癖症の症状が強く出ました。ばい菌が気になって、やがて服を着ることさえできなくなったのです。この方にとって、お子さんが服を着るというのは、当たり前ではありません。だからこそ、感謝の心でいっぱいになったのですね。

一緒に生活する家族がいること。三度三度ご飯が食べられること。安全に、そして快適に眠る場所が与えられていること。学校に行けて、勉強を教わったり友だちと交わったり部活動をしたりできること。働いていないのに小遣いをもらえること。自分の能力とやる気次第でどんな職業に就くこともできること。見たり聞いたり指を動かしたり歩いたりできること……。数え上げれば感謝の種は無限に存在します。どんな些細なことも感謝できる感受性を、子どもたちの中に育てていきたいですね。

そのためには、まず私たち大人が模範を示さなければなりません。家族の中で、些細なことに「ありがとう」と言っていますか? もうすでにたくさん言っていらっしゃると思いますが、もっともっと感謝の言葉を口にしましょう。言わなくても伝わっているはずだと思うのは甘えです。しっかりと言葉に出して、相手に伝えましょう。それが、大切なお子さんを感謝できる人に育てます。

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福島県大玉村
スクールソーシャルワーカー
増田泰司(ますだたいじ)

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