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福島県大玉村 スクールソーシャルワーカーだより

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暴力・暴言と脳


2018年11月号
近年、スポーツ界を中心に、暴力や暴言・脅しを使った、恐怖や不安感で支配するような指導法が問題になっています。現代では、このような指導は否定されていますが、自分自身が体罰や暴言を受けて育ってきた人たちの中には、未だに肯定的な意見を持っている人や、実際にパワハラ的な指導を行なっている人もいるようです。

暴力・暴言・脅しを使った指導法は、世間ではハラスメント(いやな気持ちにさせること)の問題、あるいは人権の問題、さらには犯罪(傷害罪や侮辱罪など)の問題として取り上げられ、批判されることが多いですが、ここでは脳に与える影響についてお話しします。以下は、福井大学の友田明美教授が行なった研究に基づきます。

脳が変形する

前頭前野の萎縮

友田教授によると、子ども時代に体罰を受けた人の脳は、体罰を受けていない人の脳に比べ、前頭前野の容積が平均19.1%少なくなっていることが分りました。脳の前頭前野は、以下のような能力と関係しているとされています。
  • 現在の行動によってどんな未来が生じるか予想する力
  • ゴールに向かってどんな行動をすればいいか考える力
  • 対立する考えや欲求を調整する力
  • 湧き上がる感情をコントロールする力
  • 実行すると社会的に問題になるような衝動を抑制する力
暴力的な指導によって前頭前野が萎縮すると、これらの能力が十分に育たなくなる恐れがあるということです。その結果、
  • 自分で目標を立て、それを実現するための行動計画を立て、指導者が見ていなくても自発的・自律的に実行することが苦手になる(いわゆる指示待ち人間、無気力人間)
  • 集中力や落ち着きを欠く
  • パニックに陥りやすかったり、急に激高したりと、情緒が不安定になる
  • 衝動的な行動や社会的に迷惑な、場合によっては犯罪的な行動を取りやすくなる

指導者が暴力を使ってでも指導しようとするのは、相手をより良くしたいという教育的な意図を持ってのことでしょう。しかし、相手を指示待ち人間にしたり、情緒不安定にしたり、反社会的な人間にさせたりするとしたら、教育としては全く逆効果です。

聴覚野の肥大

一方、暴言・脅しはどうでしょうか。友田教授の研究によると、暴言を受けて育った人の脳は、そうでない人に比べて聴覚野の容積が平均14.1%多いことが分りました。聴覚野は、耳から入ってきた音情報を処理する部分です。ここが異常に肥大すると、かえって「大きな音が頭の中を駆け巡って不快だが、相手が何を伝えようとしているか理解できない」状態になります。場合によっては、対人恐怖症や心因性難聴になることもあります。

指導者が暴言や脅しを使って指導するのは、相手をより良くしたいという教育的な意図を持ってのことでしょう。しかし、何を言われているか相手が理解できなくなるとしたら、これまた教育的効果はないということです。

意味のない指導はしない

さらに、暴力や暴言・脅しを使って育てられた子どもは、「問題解決のためには、暴力や暴言・脅しを使ってもいい」と学習します。目の前にそれを実践しているモデルがいるからです。

ということは、パワハラ的な指導をするのは、「他人と利害が対立したら、互いの立場を尊重しながら話し合いで解決するのではなく、暴力で相手を屈服させていいよ」「相手に何かをして欲しいときには、丁寧に説明してお願いするのではなく、暴言を吐いて相手の尊厳を傷つけたり、恐喝のように脅したりして、無理矢理言うことを聞かせてもいいよ」というふうに、教えることになるということです。

下手をすれば、犯罪者を育てることにもなりかねません。

パワハラ的な指導をする人も、相手の成長・幸福を願ってそうしています。しかし、残念ながら科学的に見れば全く意味がないどころか、かえって逆効果です。ですから、私たちはそのような指導法には手を出さないようにしなければなりませんね。

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