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福島県大玉村 スクールソーシャルワーカーだより

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愛は脳を活性化する


2018年12月号
前回、暴力・暴言・脅しを使った指導法は、脳を物理的に異常萎縮・異常肥大させ、かえって相手の能力の発達を邪魔してしまう結果となる、という話をしました。その際に紹介した友田明美教授(福井大学)は、NHKの番組でも特集され、現在この問題が大変注目されるようになっていることが分ります。

また、先日、福島県立医大の星野仁彦先生の講演をお聞きしましたが、虐待を受けて育った子どもは、脳の発達異常により、発達障がい(注意欠陥多動性障がいや自閉症スペクトラム)と同じような行動特性を後天的に身につけてしまう恐れがあるという話を伺いました。

そんな話を見聞きすると、「うちの子はもう手遅れなんだろうか」と心配する保護者の方々もおいでかも知れません。実際、子への虐待と自身へのDVから逃れるために離婚なさった女性から、そのような心配の声を聞きました。今日はそんな心配にお答えします。

脳挫傷の青年の回復

もう15年前に亡くなられましたが、脳型コンピュータの開発や、その研究過程で手がけたヤリイカの人工飼育法の開発で有名な脳科学者、松本元先生の講演で聴いた話です。

ある時、知人女性から松本先生に電話が入りました。高校生の息子さんが交通事故に遭い、意識不明の重体だということです。最も深刻な障害は脳挫傷。頭を強く打つなどの原因で、脳細胞が損傷を受ける状態です。息子さんの場合、脳表面の細胞の半分が死滅した状態になっており、たとえ命を取り留めても意識が戻らない、いわゆる植物人間の状態になるだろうという医師の見立てでした。

松本先生は電話口でこう言いました。「お母さん。たとえ反応がなくても、一日中手足をさすり、優しくお子さんの名前を呼び続けてあげてください」。

お母さんや家族はそのアドバイスを実践しました。すると、息子さんは奇跡的な回復を見せ、意識を取り戻したばかりか、数ヶ月後には、自分の足で歩いて退院していったそうです。その後も、健康な人とほとんど同じような生活をすることができるまでになりました。

実は、退院後にレントゲンで調べても、相変わらず脳表面の半分は死んだ状態でした。残った脳神経同士がつながり合い、新しい情報ネットワークを作り上げていたのです。そして、脳細胞の再ネットワーク化を促したのは、お母さんや家族からの、愛情のこもった温かい関わりだったと考えられます。松本先生はおっしゃいました。「脳を活性化させるのは、愛です」。死にかけたヤリイカの脳細胞だって、愛情を持って接すれば生き生きとよみがえる、と。

温かい関係性による回復の可能性

前回申し上げたように、暴力・暴言・脅しを使った指導法は、脳に破壊的な悪影響を与える恐れがあります。しかし、愛が脳を活性化するのであれば、一旦虐待やパワハラ指導で悪影響を被った子どもの脳であっても、その後の周りの人たちからの関わり次第で、十分回復可能だと言えるでしょう。

まず、虐待やパワハラ的な指導の場から、その子を救い出す必要があります(底に穴が空いたバケツにいくら水を注いでも、水は満たされませんものね)。

そして、その子の存在を喜んでいることを言葉と態度で伝えます。優しくスキンシップする、笑顔であいさつする、健全な行動に注目してそれを認める、最後まで話を聴く、一緒に楽しいことをする、など。

もちろん、しつけたり叱ったりしてはいけないということではありません。どうしても叱らなければならないときは、怒鳴ったり叩いたり嫌みな言い方をするのではなく、それをしてはいけない理由と、代わりにどうして欲しいか(代替え行動)、それをするメリットを丁寧に伝え、さらにそれでも自分はその子のことを大切に思っているということを、言葉や態度で示します。

虐待を受けてきた子どもたちは、周りの人の愛情を試すような行動をよく取ります。ルールを無視したり、ひどいいたずらをしたりして、大人や友だちに対してわざと怒らせるようなことをするのです。それは、「それでも僕を受け入れてくれますか? 優しく抱きしめてくれますか? 優しい言葉かけをしてくれますか?」という、損傷を受けた脳からの叫びなのでしょう。

試すような迷惑行動にもかかわらず、その子の愛情欲求・関係欲求に応えるのは時間もエネルギーも必要です。しかし、それでも回復の希望はありますし、実際そのような例を私もたくさん見聞きしています。

もちろん、脳が活性化するのは、子どもだけではありません。大人だってそうです。虐待やパワハラを受けていない人だって同じです。家庭でも職場でも地域でも、温かいぬくもりに満ちたコミュニケーションを心がけたいですね。

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増田泰司(ますだたいじ)

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