2019年1月号
新年おめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
新しい年が始まったということで、今年一年の目標をお立てになった方も多いかと思います。目標は立てればそれで終わりではなく、実際に達成できなければ意味がありません。実際に達成できる良い目標の立て方にはいくつかのコツがあるのですが、今回はその一つをお話ししましょう。
転落死した綱渡りの名人
1905年生まれのドイツ人で、カール・ワレンダという軽業師がいました。彼は、命綱やセーフティネットなしに綱渡りをすることで名声を博し、年を取ってからもその芸は衰えを見せませんでした。ところが、1978年、73歳のとき、プエルトリコのビルの間に張られた高さ37メートルの綱渡りに挑戦しますが、風にあおられてバランスを崩し、落下して死亡してしまいました。
事故の後、彼の妻はこう語りました。「これまで、カールは綱を渡り切ることしか考えていませんでした。しかし、その日は落ちないことに意識を向けていたのです」。
ワレンダ要因
このエピソードから、ある心理学的な効果に「
ワレンダ要因」という名前が付けられました。それは、「
成功に意識を向け続けると本当に成功しやすい。そして、失敗に意識を向け続けると失敗しやすい」という効果です。人の無意識(心の中で、自分では自覚できない部分)は、自分が口にしたこと、あるいは考えたりイメージしたりしたことに注目し、それが実現するように心や体を背後からコントロールします。ですから、そうなりたくないことを口にしたりイメージしたりしていると、逆にそうなってしまうということです。
たとえば、人前で緊張しがちの人が、発表会の前に「緊張しない」という目標を立て、「緊張しないぞ。絶対緊張しないぞ」と口ずさんだりすると、かえって緊張感を高めてしまうことになります。
もちろん、リスク回避のために、失敗や起こりうる問題をあらかじめ予想しておくことは必要なことです。しかし、その上でいったんやろうと決めたならば、うまくいかなかったらどうしようと考えるのはやめて、成功している自分の姿をイメージし、それをイメージし続けていくことが大切だということですね。これはスポーツなどのメンタルトレーニングでも活用されています。
しない目標ではなく、する目標
このワレンダ要因を目標設定に応用するとどうなるでしょうか。それは、「
しない目標ではなく、する目標を立てる」ということです。たとえば、「子どもを怒鳴らない」ではなく、「一日3回ほめる」や「一日1回抱きしめる」というような目標です。
なお、「禁煙する」というのは「する目標」のようですが、実は「タバコを吸わない」という意味ですから、「しない目標」の一種です。これを「する目標」に変えるなら、たとえば「吸いたいと思ったら、アメをなめる(お茶を飲む。300歩歩く)」というのはどうでしょう。
具体的にイメージできる目標
「する目標」を立てるコツは、
それを達成した自分、あるいは達成しつつある自分の姿を生き生きとイメージするということです。「しない目標」は生き生きとイメージできないか、イメージできたとしてもその姿が苦しくてつらいものです。ですから、なりたい自分を具体的にイメージしましょう。そして、そうなることを目標に設定しましょう。
たとえば、ダイエットしたいとします。ケーキやトンカツを前にしても食べるのを我慢している、つらい自分をイメージするのではなく、痩せて結婚当初に来ていたワンピースやスーツを着て、颯爽と同窓会に出席している、うれしくて誇らしい自分をイメージするわけです。
とりあえず何をする?
悩みが深いとき、つらくて苦しくて何もできなくなってしまうものですね。そんなときも、つらい出来事に意識を向けるだけだと、どんどんつらくなるし、夢も希望もなくしてしまいます。ですから、「この問題が起きたことは仕方がない。じゃあ、とりあえず何をしようか」と考えてみましょう。