2019年4月号
お子さんのご入園、ご入学、ご進級おめでとうございます。私は、大玉村教育委員会所属のスクールソーシャルワーカーで、増田泰司(ますだたいじ)と申します。皆さまの子育てや教育をお手伝いしています。そして、8月を除く月1回、こうして「スクールソーシャルワーカーだより」を発行して、子育てや人間関係や仕事などに役立つお話をさせていただきます。質問・感想・相談は大歓迎です。
1万円のチップ
先日、インターネットでストリーミングサービスを提供している会社、SHOWROOM代表の前田裕二さんが登場したテレビ番組を観ました。以前、「メモの魔力」という本を書き、ビジネスや生活などで成功する様々なアイディアを引き出すための、メモの取り方を紹介していらっしゃいました。
前田さんのメモの取り方は、ノートを見開きで使います。そして、左側のページには起こった事実を、そして右側にはそれに対して自分が気づいたり考えたりしたことを記入します。
前田さんは生まれたときから父親がおらず、母親も8歳で亡くしました。最初は親戚に引き取られますが、反りが合わなかったため、10歳上のお兄さんが高校卒業後に就職して、前田さんを育ててくれました。そんなお兄さんを助けるため、前田さんは11歳から路上でギターの弾き語りをして、チップを稼ぐようになりました。
ある日、観客からある歌をリクエストされましたが、前田さんはその曲が弾けませんでした。そこで「1週間待ってください。練習してきます。」とお願いをし、1週間後にその曲を披露しました。すると、リクエストしたお客さんは、なんと1万円ものチップをくれたのでした。
その当時、前田さんがメモを取っていたなら、左側には「リクエストされた曲を弾けなかったが、1週間練習して披露したら、リクエストしたお客さんが1万円くださった。」と書くことになります。そして、右側には
「人は、自分のために時間を使ってもらうと、感動して何かお返ししたくなる。」
時間は愛情
アメリカでの話です。牧師が葬儀の司式を頼まれて式に臨みました。ところが、亡くなった人の家族は、みんな同じ町に住んでいるにも関わらず、参列者がたった一人で、しかもそれは葬儀屋さんでした。「ご家族はどこにいらっしゃるのですか?」と牧師が尋ねると、葬儀屋さんはこう答えました。「私はこの男のことをよく知っていますが、家族のために自分の時間を使おうなんて一切しない奴でした。だから、今家族がこの男のために1分だって使いたくないと思ったとしても、私は全然不思議じゃありません。」
子どもたちが望んでいること
以前、小学生に行なったアンケートの結果を読みました。「お母さんに望むこと」という問いに対して、回答のトップは「小遣い上げろ」ではなく、「『お母さん』と呼んだとき、『なあに?』と振り返って欲しい」でした。
子どもたちにとって、大人の時間は愛情の象徴です。大人が自分のために時間を使ってくれたなら、自分はその人に愛されているのだと感じます。そして、11歳の前田少年が気づいたように、お返しをしたくなります。親を喜ばせたい、親が悲しむことはしたくない、親の期待に応えたいと思うようになります。
子ども時代の前田さんは、とにかくお金が欲しかったので、法に触れるようなやり方に手を染めてしまい、警察に補導されてしまったことがあるそうです。連絡を受けて警察署に飛んできたお兄さんは、前田さんの顔を見るとポロポロと涙を流しました。それを見て、前田さんも心を痛めました。
「兄は勉強が得意で、医師になることを夢見ていた。それなのに、自分を育てるために、大学進学を諦めて就職してくれた。そして、一生懸命に働いて自分を育ててくれている。その兄を自分はこんなにも悲しませてしまった。もう二度と兄を悲しませるような真似はすまい。それどころか、兄に喜んでもらえるような生き方をしよう。」小学生の前田さんはそう決心しました。
私たち大人は、何かと忙しくしています。あれもしなければならないし、これも片付けておきたいし、それもやりたいし……。もちろん、そういう時間も大事です。しかし、ほんのちょっとだけ立ち止まって、
子どもたちを見つめる時間、子どもたちを抱きしめる時間、子どもたちの話に耳を傾ける時間、子どもたちと遊ぶ時間を作ってみてください。今よりも、ほんのちょっとの時間でかまいませんから。