2019年7月号
先月、国会で「児童虐待の防止等に関する法律」(通称「児童虐待防止法」)と「児童福祉法」が改正され、一部を除き来年4月に施行されます。今回の改正のポイントを簡単に解説します。
児童虐待とは
児童虐待防止法では、親権者や他の同居人による児童(18歳未満の者)に対する次のような行為を「児童虐待」と呼んで、「
してはならない」と禁じています。
- 身体に外傷が生じる、または生じるおそれのある暴行(身体的虐待)
- 児童にわいせつな行為をしたり、させたりすること(性的虐待)
- 保護者としての監督と保護を著しく怠ること(ネグレクト)
- 著しい心理的外傷を与える言動を行うこと(心理的虐待)
そもそもこれらの行為は、傷害罪、暴行罪、強制性交等罪、強制わいせつ罪、強要罪、保護責任者遺棄罪、侮辱罪など刑法に触れるような不法行為です。親権者だからといってその責めを免れることはないことが明記されています(実際、刑法犯として処罰される場合もあります)。
児童虐待に該当すると思われる例をいくつか挙げてみましょう。
- 心身の正常な発達を妨げるほど食事を与えなかったり、家を空けて何日も児童だけで生活させたりするのはもちろん、病気や怪我や虫歯などで治療が必要なのに受診させなかったり、乳幼児健診を受けさせなかったりするのも、上記3番に該当する恐れがあります(医療ネグレクト)。
- 他の家族が虐待を行っているのを知りながら何もしないのは、3番に該当する恐れがあります。
- 児童本人に暴言を吐いたりひどい拒否的態度を取ったりするのはもちろん、児童の前で別の人に暴力や暴言を加えるのも、将来に渡ってひどい心理的悪影響を児童に与えるので、4番に該当する恐れがあります(面前DV)。実際、子どもの前で激烈なケンカをしたり暴力を振るったりしたという理由で、介入した警察から児童相談所に通告されるケースが近年激増しています。
通告の義務
虐待を受けている児童を発見した人には、速やかに市町村か福祉事務所か児童相談所に通告する義務があります。その際、
虐待の証拠を示す必要は必ずしもありません。「これは虐待が行われているのではなかろうか」と思うような状況なら、疑わしい段階でも通告してください。なお、激しい暴行やDVが現に行われているような緊急性・危険性が高いケースでは、まず警察に連絡しましょう。
通告義務の詳細については、2013年2月号でも取り上げました。パソコンやスマホで
バックナンバーサイトを開ける方はぜひお読みください。
主な改正のポイント
体罰禁止の明文化
しつけの際の体罰禁止が明記されました。しつけそのものが禁止されたわけではなく、今後厚労省が禁止される体罰の範囲を定めます。また、民法の「懲戒権」(親権者は子の非行に対する教育のために、子の身体・精神に苦痛を加えるような懲罰手段をとることができる)が体罰容認の根拠にされてきたため、懲戒権のあり方について2年間をめどに廃止も含めて検討することになりました。
児童相談所の対応能力強化
これまで、児童相談所は子どもの保護などを行う「介入」と、保護者の相談などを行う「支援」とを同じ人員で行っていました。そのため、保護者との関係悪化を恐れて介入が遅れてしまうケースも見られました。そこで、介入チームと支援チームを分離することになりました。
そして、対応のための専門職である児童福祉司が膨大な数のケースを抱えていて、きめ細かい対応が難しい現状の改善のため、人口や対応件数を考慮して児童福祉司を増員するほか、医師と保健師も各児相に1名以上ずつ配置されます。このほか、DVの対応機関との連携強化、また転居時にも切れ目のない支援を続けるため、転居先の児相や関係機関との速やかな情報共有なども盛り込まれています。
関係機関の守秘義務再確認
被虐待児のアンケートの写しを、野田市教委が父親に渡してしまったようなケースを防止するため、学校や教育委員会や児童福祉施設の職員には守秘義務が課されていることが再確認されました。
虐待をした保護者へのサポート
虐待をしてしまう保護者の多くは、自分自身が虐待されて育ったと言われています。また、経済的、あるいは精神的に困窮している場合や、子どもの発達上の特性から育てにくさがある場合や、保護者自身の発達上の特性や経験不足からどう育てていいのか分らない場合も多いです。そこで、都道府県などが保護者に対して医学的・心理学的な知見に基づくサポートを行うよう努力することが明記されました。