2022年9月号
4月以降、困難がやってきても自分で自分を励ましやる気を引き出せる、「強い心の育て方」というテーマを取り上げています。特に1学期は子どもの話にしっかり耳を傾け、気持ちに寄り添うことについてお話ししました。2学期は、より積極的に子どもから強い心を引き出す方法を紹介します。
勇気と勇気づけ
私たち大人だけでなく子どもたちも、さまざまな困難、壁、心理的なブレーキを体験します。勉強が難しくて宿題に手を付けたくないとか、最初は家事の手伝いをしていたのに面倒になってきたとか、友だちとうまくいかないから学校に行きたくなくなっているとか、やり始めたことが何度か失敗したのですぐにやめてしまいたくなったとか。
こういった
困難を克服して、しなければならない行動や態度に向かわせる内面の力のことを、アドラーという心理学者は「
勇気」と呼びました。
- 親や先生に監視されたり叱られたりしないとルールが守れなかったり、宿題や掃除や家事手伝いができなかったりする子どもは、勇気の足りない子です。勇気のある子どもは、人が見ていなくても、見ている人が誰であっても、なすべきことをやれます。
- 他人を暴力や脅しで屈服させてでも自分の我を通そうとする子どもは、勇気の足りない子です。勇気のある子どもは、自分の欲求ととも共に相手の欲求も尊重して話し合って決めることができます。
- 失敗を恐れて最初から何もしようとしない子どもは、勇気の足りない子です。勇気のある子どもは、失敗しないよう事前に十分準備はしながらも、たとえ失敗してもその都度次はどうすればいいか考えてチャレンジし続けます。
勇気づけ
そして、他の人から勇気を引き出すような関わりを「
勇気づけ」と呼びます。私たちは大切な子どもを勇気づけ、子どもの中に困難があっても乗り越えられるだけの十分な勇気を育ててやりたいですね。ではどうやって子どもを勇気づければいいのでしょうか。
勇気くじきをやめてみる
勇気づけの第1ステップは、
「これまで無意識に子どもの勇気をくじくような言動をしていなかったか?」と自分の行動を振り返り、もし見つかったらそれをやめてみることです。
よく私は「勇気は気です」などと説明することがあります。元気、根気、やる気、陽気、覇気、生気、活気、熱気、意気、英気、鋭気、負けん気などです。
子どもを指導したくなったら、すなわち励ましたりほめたり叱ったり指示したりしたくなったら、ちょっと考えてみましょう。「これを言ったら子どもの元気はアップするかな、それともダウンするかな?」「これをしたら子どもはやる気になるかな、それともやる気を失うかな?」と。
客観的な観察と検証が必要
ただし、子どもの個性によって、同じ言葉かけをしても勇気づけになったり逆に勇気くじきになったりします。ですから「こう言えばやる気になるはず」「自分の言動は子どもの励みになっているはず」という主観的な思いだけでなく、客観的な観察も必要です。本当にあの子はやる気になり、本当にがんばって続けるようになったのか……。
たとえば親や先生が子どもから「なにくそ!」というやる気を引き出したくて、「その歳でこんなこともできないの?」と叱ったとします。それで本当にやる気になる子もいますが、逆に「私はダメ人間。どうせ何をやってもダメ」とやる気を失ってしまう子もいます。「偉いね」とほめられて頭をなでられるとうれしい子もいれば、馬鹿にされたと感じて嫌な気持ちになる子もいます。
もしもこちらの意図通り、子どもの元気ややる気や根気などが引き出されていなかったり、逆効果になっていたりしたことに気づいたら、思い切ってそれをやめ、別の方法を試してみましょう。
どんなに愛情深く育てても、子育てで失敗を経験しない人などいません。科学の実験にはトライ&エラーがつきもの。子育ても同様で、失敗した後の態度が重要です。関わり方を失敗したなあと思ったとき、思い通りの結果が出ていないときには、どうしてうまくいかなかったか考え、「ではこんなふうに接したらうまくいくのでは?」と新しい仮説を立てて再挑戦すればいいのです。
次回はもう少し具体的に、勇気づけになりやすい関わり方を紹介する予定です。